齊藤PTの運動学習に関する勉強会がありましたので、ここで紹介したいと思います!
「運動学習」
みなさんも一度は聞いたり、使ったりしたことがある言葉ではないでしょうか?
では、運動学習とは実際どういったものなのでしょうか?
実は、運動学習には段階付けがあり、その段階ごとにあわせたアプローチがとても重要になるのです。
獲得したい動作を反復していれば、いつか定着するはず!というものではないのです。
ここから運動学習について一緒に学んでいきましょう 。
目次
●運動学習とは
●3つの運動学習戦略
●学習段階に応じた介入方法
●運動学習に基づくリハビリテーション
まず運動学習とは?
➀熟練した行動能力を獲得する過程である
➁経験や練習の効果である
➂直接的に測定できないが、その代わりに行動に基づいて推量される
④行動において比較的永続した変化を生み出す
これでは少しわかりにくいですよね?
では、これを臨床に置き換えると、「運動学習=失ったADLを再獲得すること」といえます!
これで少しはイメージしやすくなったのではないでしょうか 。
では、何をもって失ったADLを再獲得したといえるのでしょうか?
➀パフォーマンスの再現が可能であること
➁様々な環境や条件に適応できること
➂心肺機能、筋骨格系の機能条件に応じた効率性を有すること
→これらを満たして初めて失ったADLを再獲得したといえるわけです!
患者さんの多くは、骨折や脳卒中などでADLに介助を要したり、様々な身体機能低下が生じています。
療法士にとって、運動学習はADL獲得に向けて重要な要素の一つであるといえるわけです!
では、運動を学習する過程について図を用いて説明していきますね 。
まず私たちが運動をするとき、脳で生成された運動プログラムが筋骨格系に指令を出します。
その指令を感覚受容器(関節受容器、皮膚感覚、前庭覚、筋感覚)が情報として取り込みます。
これを内在的フィードバック(以下、内在的FB)といいます。
この内在的FBと内部モデルとの比較・照合が行われ、そこに誤差があれば修正し、また新しい
運動プログラムを生成します。 →この一連の過程が 「運動学習」 といえます!
では次に外在的フィードバック(以下、外在的FB)ついて説明しますね 。
これは治療中や治療後に行うもので、学習対象の焦点化を図る補助的な役割を果たしています。
例えば、歩行訓練中やその後に、
「さきほどより足がよくあがっていますね。」
「前回よりも5秒早く歩けましたね。」
など、様々な声掛けを行うと思います。
ごく自然に行っていると思いますが、これが外在的FBです!
★外在的FBは学習初期に有効とされています。
では、外在的FBは 「どのタイミングで」、「どれくらいの頻度で」 行うのが効果的なのでしょうか?
「どのタイミングで?」
FBは行うタイミングによってその効果が変わってきます!
同時FB・・・動作前や動作中に行われるもの
➀内的焦点化・・・関節運動や具体的な部位など、自分の体そのものに注意を向けるもの。
➁外的焦点化・・・壁に身体を近づけるなど、身体外の環境へ注意を向けるもの。
→動作目標の焦点化を図る
★理解や注意が悪く、身体に注意が向きにくい場合、外的焦点化が効果的です。
最終FB・・・動作終了時に行われるもの
動作終了時に課題の結果やパフォーマンスの特徴を伝えるもの。
→運動記憶の顕在化を図る
「どれくらいの頻度で?」
みなさまはついつい運動するたびにFBをしていませんか ?
実はこれって逆効果なんです!!
運動する度にFBを与えるよりも、2回に1回、4回に1回と頻度を落とした条件で練習した方が、 運動学習は得られやすいとされているのです。
ではこれはなぜなのか?この理由は以下になります。
➀数施行を反復して、運動イメージを明確にしてからFBを受ける方が、比較照合を行いやすく、
過剰な修正を予防できる。
➁外在的FBが過多になりすぎると、依存的になり、能動的な処理が行われなくなる。
★いかに伝えたいことを要約して、外在的FBとして与えられるか、これが重要なのです。
ここからは3つの運動学習戦略についてお伝えします。
3つの運動学習戦略とは、「教師なし学習」「強化学習」「教師あり学習」であり、それぞれは独立 しているのではなく、強調して学習は進められているのです!
「教師なし学習」
あらかじめ出力すべき明確な基準がないもの。
課題を繰り返すことで、その記憶を作り、その記憶と統合し学習していくもの。
つまり、患者さんが能動的に課題に取り組むことで成立する学習です
臨床では・・・
多様な条件や環境で、成功と失敗を繰り返しながら、患者さん自ら良い方法を探し、それらを組み合わせていくことが大事!
療法士はどうすれば問題点を解決できるのか、様々な方法や条件を提示します 。
「強化学習(報酬学習)」
運動前に予測された報酬と、報酬の結果との誤差により、行動を強化していくもの。
適切な課題設定に基づき、報酬(褒める・成功体験)を得ることで学習が促進される。
みなさまも経験があるのではないでしょうか?
何かに挑戦するとき、思うような結果やそれ以上の結果が出たら嬉しいですよね?
逆に、思うような結果に至らなかったとき、モチベーションが下がりませんか?
つまり・・・
●予測より報酬が大きい → 学習の強化(促進)
●予測していた報酬が得られた → 学習の定着
●予測していた報酬より小さい → 学習性無力感(負の強化)
この報酬に関して、とある研究があります。
褒めることが歩行能力の改善に寄与するかどうかを調査したものです。
その結果・・・
褒めた群は、褒めなかった群に比べて、歩行速度が有意に改善したのです!!
これは褒めることが報酬として働き、運動学習を促したことを示唆しています。
→運動学習を促進するためには、いい結果が出たタイミングで褒めることが重要なのです。
「教師あり学習」
臨床で最も実践している学習方法、意図した運動(予測)と実現した結果の誤差修正する過程。
運動の正確性に関与している。
図を見ながら説明していきますね 。
運動の指令が皮質脊髄路から下降します。その時に一度、内部モデルからの運動情報のコピーが橋核を介して小脳にいきます。これが遠心性コピーです。
この遠心性コピーと小脳のコピー情報とを照らし合わせ、これが繰り返されることで長期的な制御がかかります。こうして正しい運動出力として、フィードフォワードモデルが小脳に形成されます。
ここでは療法士は、正しい感覚入力で、正しい運動出力を誘導することが大切です!
ここからは学習段階に応じた介入方法について説明していきますね 。
[運動学習の段階]
1 認知段階 「何をするのか」
一定したパフォーマンスを生み出す正しい運動プログラム作成のために試行錯誤を繰り返す。
運動全体の理解をする段階。
●患者さんの身体機能、学習能力、ニーズに合わせて課題の要素、難易度の設定を行います。
その際、注意や集中を妨げるものを減らすことが大切。またフィードバックではランダムに出現 するエラーは無視し、一貫して生じるものに焦点を当てましょう。
2 連合段階 「どうやって行うのか」
認知段階で理解した運動プログラムを修正し、より一貫したものを仕上げる段階。
●この段階では、患者さん自身が得る手続き学習が重要な役割を担います。
学習効果が持ち越されているかどうかは、「保持テスト」「転位テスト」にて確認をします。 また外在的FBを調整し、視覚的なものから固有感覚へ移行していきます。 習得した運動スキルをさまざまな条件下で発揮できるように、多様な環境での練習を行いましょう。
3 自動化段階 「いかにうまくやるか」
課題遂行中の認知的なモニタが最小となる段階。
●標的となる動作を何も考えずに、むしろその動作を行いながら別のことが処理できるような安定性が求められます。2重課題などタスクが増える練習も行いましょう。 さまざまな環境でも安定したパフォーマンスを発揮できるよう、生活場面の設定、代償手段の検討も重要になります。
→学習段階に適合した課題やフィードバックの与え方を工夫することで、学習効果を高める手続きが 重要となります!
[運動学習の効果判定]
「保持テスト」
学習された運動スキルが翌日、あるいは1週間後など一定の時間をおいて再生できるか。
そのスキルが運動記憶として固定されているかを確認する手段。
例:起立動作のパフォーマンスが翌日にできているか。
「転位テスト」
学習した効果が異なる課題や運動スキルに影響を与えること。
学習された運動スキルが目標とするパフォーマンスにおいて、好ましい形で影響している ことを確認する方法。
例:起立動作が、トイレ動作という一連の動作の中でできているかどうか。
長くなりましたが、ここまで理解はできたでしょうか?
最後に運動学習に基づくリハビリテーションについて説明していきますね!
[課題指向型アプローチ]
まず、日々の訓練は単純な繰り返しだけでなく、スキル化を要求し、かつ運動学習のプロセスにそった課題指向型訓練でなければなりません。つまり患者さん自身がスキルを獲得する意図を持ち、実生活で行う課題を繰り返し訓練することであり、その課題は挑戦的かつ漸進的に調整されたものとなります。
課題の選択→患者さん自身が興味のあること、意味のあるもの
課題の練習→全体的な練習を中心に行うが、必要に応じてかけている要素を部分的に練習する。
ここでは「目標の方法と明確化」そして「難易度の調整」が重要です。
「目標の方法と明確化」
全く不適当な運動や行為を練習している場合、学習を阻害し、悪い習慣が身についてしまいます。
ここでは適切な口頭指示、デモンストレーションが重要となります!
「難易度の調整」
難易度の高い運動は一部制限する必要があります。
これにより、患者さん自身は目標達成に関する筋活動に専念することができます。
ここでは必要に応じて環境設定、徒手的な誘導、装具の使用を検討します!
いかがだったでしょうか?
難しい内容でしたが、運動学習という言葉を何気なく使用していた方も、しっかり理解する良い機会になったのではないでしょうか。
また失ったADLを再獲得するとき、運動学習という要素が重要になることも理解できたのではないかと思います。ただ、当たり前ですが、運動学習の視点だけでは問題を解決することは難しいです。
やはり日々の動作観察、分析、評価がとても重要であり、その動作の構成要素を把握しておくことが何より重要といえます。